「大学の学びはこんなにおもしろい!」

「より実際に近い経済活動の実態を掴むための基盤をつくる研究」
メディア学部 榊 俊吾 准教授

■先生の研究室では、どのようなことに取り組んでいるのですか?
大雑把にいえば、映画、パソコン、テレビ、自動車といったさまざまな業界、しかも学生の関心ある業界を対象に、経済・経営活動の調査研究を行っています。ですから卒業研究のテーマは、基本的には学生自身が興味のあるものを自分で設定するということにしています。例えば、スーパー銭湯について調べている学生がいます。学生数名でそこへ行き、お客さんの年齢層や男女比、家族連れかどうか、駐車場にある車のナンバーからどこから来ている人が多いのかといったことを調べたり、その施設内でよく注文されるお酒や料理についても丹念に調査したりしています。また、パチンコ業界について研究している学生は、あるパチンコ店の客の出入りや回転率などを調べています。そういうことを調べると、その店のだいたいの利益率が算定できるうえ、お店の戦略なども手に取るようにわかるのです。お店の利益率や戦略は、アンケート調査やインタビューでは、なかなか答えてもらえない部分ですが、実際にビジネスとして動いている姿を観察することで捉えることができるのです。私の研究室では、ここ数年、そうした調査研究に取り組んでいます。経済や経営の研究は、机の上で理論を振りかざすよりも調査によって実態を知ることの方が重要です。ですから自分たちの足で稼ぐ調査をする学生がいるということは喜ばしいことですし、それに取り組んでいる学生の研究は、やはり充実しています。

■メディア学部と聞くと、ゲームやテレビ、映像などを思い浮かべがちですが、経済経営を調査する研究室とは、その中でどのような位置づけになるのですか?
本学の公式的な見解としては、メディア学部は、表現系・技術系・環境系の3つの専門領域から成り立っています。その中で私が専門とする分野は、環境系に位置づけられます。環境系とは大きくは、どういう社会的な領域でコンテンツが生かされているのか、必要とされているのか、あるいは将来の技術開発に向けてどういう領域でメディア関連の技術がいかされるのかといった背景の部分を研究するところです。
メディア学部には、確かにゲームクリエーターになりたい人や番組制作をしたい人、工業デザイン的なものをしたいという人が多いです。しかし、自分でコンテンツをつくったり、技術を勉強したりしていく中で、例えばゲーム業界について研究してみたいとか、将来的に働きたいと思っている業界がどのようなところなのかを知りたいという意識から、この研究室を選ぶ学生も少なくありません。自分の作品がどう使われるのか、どう活かされるのかを考えるには、社会の仕組みや映画、テレビ、ゲームといった各業界の仕組み、産業組織構造を知らなければいけないと、学びの中で自然と関心が向いてくるようです。

■では、先生ご自身の研究について、教えてください。
もともとはマクロ経済学が専門で、技術革新と長期経済成長の問題について研究してきました。例えば、今、ハイブリットカーが話題ですよね。あれは自動車会社の長年の研究によって実用化され、普及の段階を迎えています。自動車会社がそういった技術開発に資金を投入することは、飽和状態にある現在の自動車業界にとって新しい需要を喚起する重要なものだといえます。しかし、自動車会社はハイブリットカーの開発のみに力を注げば良いわけではなく、次の燃料電池自動車や完全な電気自動車といった別の研究にも取り組まないと新しい技術は生まれません。もし、ハイブリットカー開発のみに全資金を投入していたら、それが頭打ちになったとき、自動車会社は終わってしまいます。このように企業は、効率的に売れるものをつくる一方で、次の時代を見据えて、どういう“冒険”に投資していくのかも考えなければなりません。限られた予算内で将来のために資金をどう配分していけば良いのか。私はそういうことをシミュレーションする研究を手がけてきました。しかし、ここ3年ほどは、そのシミュレーションをより正確に行うための、正確な情報、つまりエビデンスベースのデータについて研究をしています。これまで、そうしたデータは役所などが出す統計に頼らざるを得ませんでした。ところが最近はネット上をかけ巡っている、例えば、ある企業とある企業が電子商取引上でどんなやりとりをしたかというような情報を捕捉できるようになってきています。また、「A社がB社に何月何日にこの品物を何個注文した」という取引データは、どのような形であれ、どの企業も持っています。そういう実際の経済活動そのものの情報を企業秘密に抵触しない範囲でかき集めることができれば、これまでの調査統計に代わるような、より精度の高いデータを利用することが可能になります。また、それを迅速に企業や国にフィードバックし、国民経済活動の統計を推計するのに利用できる可能性もあります。現在は、そういうことを実現しようと、内閣府の統計委員会や経済社会総合研究所と研究を進めているところです。今、ようやく構想とそれを実用化するだけの基盤技術が整ってきました。数年のうちに、実際の企業の会計データを国の統計にくみ上げるような実験を始めたいと考えています。それが完成すれば、ちょっと大げさな言い方ですが(笑)、既存の経済学を書き換えるだけの出来事になるだろうと思っています。

■先生にとって、経済学の面白さとは何でしょうか?
経済とは、すべて人の行為、それも日々の生活の行為として存在しています。そしてそれは非常に複雑で、わかりにくいものです。例えば、国がひとつの経済政策を打つにしても、ある人にとってはプラスで、別の人にはマイナスというように、いろいろな利害があるわけです。そんなふうにドロドロとしていて複雑で、わかりにくいものを、経済学の理論は、人々の生活とは別の次元で、数学的に非常にきれいに体系づけていきます。つまり複雑なものでも、経済学では数学的なモデルによって一刀両断的に体系付けられるわけです。そこが一番はじめに、面白いと感じたところですね。

■最後に学生へのメッセージをお願いします。
私はもともとは文学部志望だったのですが、両親のすすめもあって経済学部に進学しました。しばらくは文学部への思いを引きずっていた時期もありましたが、経済学の世界に飛び込んでみると、きちんと興味関心のあるものを見つけられたわけです。そういう意味では、将来を見据えて何をすべきかと考えることは重要だと思いますが、その一方で、実際にその世界に入ってみないことには分からない部分もあるんですよね。ですから「これしか勉強したくない!」と思いつめたように進路や将来を考えている人には、そういうこともあるんだよと伝えたいです。限定された情報の中で判断するのは、もったいない。知っていることのほかにも、たくさんの輝かしい可能性があるはずです。それはやってみないとわからないものですけどね。初志貫徹は大切ですが、もし別の道に進むことになっても、そこで見つかる新たな可能性があるのだということを知っておいてほしいです。
[2009年1月取材]

■経済経営調査研究(榊俊吾研究室)(PCサイト)
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media_dep/8.html

・次回は3月12日に配信予定です。

大学の学びはこんなにおもしろい!TOPへ
TOPへ