「大学の学びはこんなにおもしろい!」

「看護に必要となる研究的な視点を身につけてほしい」
医療保健学部 看護学科 石川ふみよ 教授 

■先生の研究について教えてください。
成人看護学という分野の急性期(発病して間もない時期)、特に重症者とその家族を対象とした研究をしています。例えば、救命救急センターやICUといったところで、一命を取り留めた患者さん。そうした方々は、命は助かっても、その後は比較的重い障害を持って、生きていかなければならないことが多いのです。ですから命が助かる・助からないの部分だけでなく、助かった方々にどう生きていってもらうかを考えることもすごく重要なんですよね。そういうところから、私は、現在、退院して日常生活に戻られた方々から、実際の生活でどういうことに困っているのか、意見をうかがっています。それらを集めて分析することで、退院するまでに病院でどういう対応をしておくべきなのか、どういうことができるのかを提言したいと考えているのです。

■例えば、どういったケースがあるのでしょうか?
具体的に言うと、交通事故や転落、スポーツなどで脳に障害を持った“外傷性脳損傷”の方とその家族を対象にしています。その中でも特に注目しているのは、若い人たちです。外傷性脳損傷を負った場合、運動障害は日常生活を過ごせるくらいにまで回復することは多いのですが、高次脳機能障害という後遺症を残す人は少なくありません。高次脳機能障害は、記憶や思考、知能、感情コントロールやコミュニケーションなどの障害です。高次脳機能障害によって以前と同じように学校に通えなくなったり、社会人の場合は、もともとしていた仕事ができなくなったりします。友だちや職場の人との関係を築くことが難しくなるので、孤立しやすくもなります。その結果、彼らは行き場所を失い、結局、自宅で母親に面倒をみてもらいながら暮らすということになってしまうのです。
また、ここで問題になるのが、母親との関係です。母親は親離れした子どもが再び手元に戻ってきたという気持ちからか、まるで赤ちゃんや小さな子どもができたような感覚になり、「いつか治る」と信じて献身します。つまり患者も母親も共に依存しあう関係になってしまうのです。はじめはそれも必要かもしれませんが、長く続くことは望ましいことではありません。なぜかというと、高次脳機能障害は、一緒に生活する人の理解と働きかけ方次第で状態が変わる部分が大きいからです。つまり周りの人の働きかけひとつで感情を爆発させたり、逆にうまくコントロールしたり、低下した機能を引き上げたりすることもできるのです。また、いつまでも親の庇護のもとにはいられないので、患者が自立して社会で生きていけるように、外の世界へ出す必要もあります。そういう点からも、周囲の人や家族が客観的に病気を理解し、どうサポートしていくのかが重要になってきます。そういうことをうまく進めていくために、家族などのサポートする側に対して、私たち医療側がどう介入していくのかという研究に取り組んでいるところです。

■学生には、どういった教育をしていきたいと考えていますか?
看護も医療も、日々、変わります。一度覚えたら終わりではなく、日々の中で「どうしたらもっと良くなるのだろう」と考えていくことが大切なのです。そのためには、研究的な視点を持っておく必要があります。「どうしたら良くなるか」「どうしたら患者さんに喜んでもらえるか」ということを考えるときに必要となる、ものの考え方や見方を大学で身につけてもらおうと思っています。例えば、卒業研究などを通して、何か疑問が生じたときにそれを解決するための資料を集めたり、具体的にこう行動すればこれがわかるということを知ったりするきっかけを与えたいのです。そういう経験は、いずれ学生たちが看護師として現場に立った時に、必ず役立つはずですから。
また、大学ではハウツー的な学びではなく、その手前にある「今、この患者さんはどうなっていて、何が必要か」を考えて判断し、援助に結びつけられる力を養う教育に重点を置いています。正直なところ、技術は現場に出れば身につく部分があります。だからこそ、その前段で必要となる判断力や思考力こそを、大学で身につけるべきだと考えているのです。それがないと技術を持っていても活かせませんし、将来のキャリアアップもできませんからね。ですから本学科では2年生の前期に、そうした判断力を養うための「ヘルスアセスメント」という授業を用意しています。

■「ヘルスアセスメント」とは、どのような授業なのですか?
これは、患者さんの身体面はもちろん、その背景にある生活や心理面にも着眼して判断する力を身につけていく授業です。身体面に関しては、頭の先からつま先までの構造、それらの機能が正常か異常かを判断する力を養います。心理面においても、うつ状態になっていないか、あるいは不安や心配ごとがないか、健康を維持するために生活面で問題となっているところがないかを判断します。このように患者さんの状態を多角的に見て、援助の必要があるのか、どんな援助が必要なのかを見極めるための知識や技術を学んでいきます。

■先生は、看護師にはどんな素質や素養が必要だと思われますか?
簡単には言えませんが、ひとつは自分のことを客観的に見られることだと思います。そうでないと、相手のこと、患者さんのこともわかりませんからね。それから、ある程度、自分の健康を保てる人。それは体と心の両方です! 具合の悪い患者さんと向き合うのは、結構大変ですよ。相手もつらいので、看護師にそれをぶつけてくる人もいます。ですから、体はもとより心の健康を保つことも重要なのです。あと、これは元々持っていなければどうにもならないかもしれませんが、患者さんのつらさや気持ちを感じられる「感性」ですね。実のところ、これが一番重要なのではないかと思っています。

■最後に、今後の展望をお聞かせください。
東京工科大学の特長をいかして、コンピュータの知識や技術を今後の医療や看護とうまく連携させ、活用したいと考えています。今、一部の海外では、患者さんの入院期間を短縮化し、病棟や外来の看護師がインターネットを使って、その患者さんのフォローをするというシステムが取り入れられています。きっと日本にも、遅かれ早かれそういう時代が来ることでしょう。また、最近は急ぐ必要のない人が救急車を呼んだり、救急診療を受診したりということが問題になっています。そうした救急医療分野でも、インターネットやコンピュータを活用することで問題を解決していけるかもしれません。それから国内の病院では看護記録などのコンピュータ管理が進められていますが、実はまだ使い勝手の良いシステムがなく、現場は混乱状態です。ですから本学のコンピュータサイエンス学部と医療保健学部が連携して、医療現場で役立つシステムを開発し、発信していければと思っています。

[2009年11月取材]

■医療保健学部

・次回は1月15日に配信予定です。

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