「大学の学びはこんなにおもしろい!」

「ゲーム開発を経験することで、自分に必要な学びを知ろう」

コンピュータサイエンス学部 亀田弘之 教授

■先生が担当されているゲームプログラミング教育について教えてください。
例えば、今年の4月から始まった、2年生対象の「コンテンツプログラミング系実験I」という授業があります。これは、本学部の中村太一教授によって立ち上げられた“タンジブル・ソフトウェア教育” というプロジェクトの一環として取り組んでいる授業です。“タンジブル・ソフトウェア教育”というのは、簡単にいえば、実社会に出てすぐに役立つ教育を大学でしようという試みです。この背景には、社会で必要とされるソフトウェア開発に取り組める人材をきちんと育てるために、大学教育でもっと実践的な学びを取り入れてほしいという産業界からの強い要望があります。私はこの“タンジブル・ソフトウェア教育”プロジェクトのいちメンバーとして、ゲーム開発を題材に新しい方法で学生にプログラミングを教えようと取り組んでいるのです。

■新しい方法とは、具体的にどんな試みなのでしょうか?
従来のプログラミングの授業は、例えば「100以下の素数をすべて求めなさい」というような、ある人にとっては楽しいのかもしれませんが(笑)、多くの人にとっては必ずしも楽しくない題材を扱ってきました。そこでもう少しみんなが楽しく勉強できるようにしようと、ゲームを開発することで、つまりソフトウェアの開発を通して、プログラミングを体験的に学ぶことを始めたのです。コンピュータに向かってソースコードを打つだけでなく、どんなゲームをつくるのかという企画から納品まで、一連のプロセスを通して勉強しながらゲーム開発をしてみようという試みです。これは新しいものを自分の頭で考えて、主体的に学ぶことを目的とした、PBL(Project Based Learning)という新しい教育方法です。ですから教員はある程度の素材を用意しておくだけで、何をどうつくるかということは全部、学生自身に決めさせ、実行させます。「コンテンツプログラミング系実験I」では、「Greenfoot」というオブジェクト指向プログラミング用のオープンソースソフトウェア(OSS; Open Source Software)を使っていて、最初に基本的な使い方やプログラミングを学んでもらいます。その後、学生たちには5人くらいのグループに分かれてもらい、自分たちで「Greenfoot」を使ってゲームを開発してもらいます。また、このグループは、ひとつのソフトウェア会社という設定にしています。そうすることで単なるグループ学習ではなく、「もしかしたら売れるくらいのものができるかもしれない!?」と学生にモチベーションを持たせているのです。当然、企画書や提案書、設計書も書いてもらいます。5人いるので、プログラミングが得意な人、絵を描くのが得意な人、音楽をつくるのが得意な人、ゲームのシナリオを考えるのが得意な人というように分担して取り組んでもらっています。

■ゲーム開発のプロセスを経験させることで、どんなことが期待できるのですか?
まず、ゲームをつくるということが、実はものすごく大変なことなのだということに、早い段階で気づけることですね。最初に「こんなゲームをこんな人たちがこんなふうにすると楽しい」というコンセプトを考える人がいて、あとはそれに基づいてRPG (Role Playing Game) なのかシューティングなのか仕様を決め、キャラクターを決め、そのキャラクターはどんな顔・形でどんな服を着ていて、どんな過去を背負っているのかというような性格付けをし、シナリオが決まります。それから背景の絵やサウンドといった芸術系の大学出身の方たちが活躍する部分があって、さらにはゲームの難しさや面白さを具体的に決めるレベルデザインがあり、それらが全部整ったところでコンピュータサイエンス分野の人がプログラムをつくっていきます。そういうことを踏まえて、実際にゲーム開発に取り組んでみて、「自分はどこをしたい?」「どこが自分にできるところ?」ということを考えてみてほしい。まず全体を知ることで、自分たちの仕事の領域というのを理解してほしいのです。
それと同時にプログラムがうまく書けなかったとか、もっとこうしたかったのに自分の力ではできなかったという反省を通して、自分に足りないものを知ることができます。シミュレーションみたいなものをつくりたければ、もう少し物理や数学の知識が必要だなという具合に。3年生からは、さまざまな専門科目が待っています。ですから、それがどういうところに役立つのかということを2年生の段階で気づかせるという目的もあるのです。よくわからないけど必修だから授業を受けるというのを、少しでも減らしたいと考えています。

■先生のご研究についてお聞かせください。
ゲームつながりですと、臨床医と一緒に研究している「認知リハビリテージョン用ゲーム作成プロジェクト」というものがあります。ご存知のように、リハビリテージョン(以下リハビリ)は機能回復のために行うものです。例えば、太鼓を叩くゲームは、運動機能のリハビリに有効だということが経験的にわかっています。一方、私の研究室で扱っているのは、人間の高次脳機能といわれる部分。経験や認識によって判断したり創造したり、言語を使ったり新しいことを学習したりする、レベルの高い部分のリハビリが可能かということを扱っています。これは実は、まだよくわかっていません。でもきっとできるだろうと考えている先生方と一緒に、ゲームを使った認知リハビリの研究を進めています。
具体的には、ボールゲームや神経衰弱、立体図形の位置あわせといったゲームのソフトウェアを開発しています。また、それがどの程度、認知リハビリに有効かという検証も進めていけるように、別のチームをつくって準備している段階です。

■最後に今後の展望をお聞かせください。
「コンテンツプログラミング系実験I」の方は、この春に始まったばかりということもあって、PBLという学び方に戸惑う学生もごく一部ですがいました。「先生は何も教えてくれなかった」というかんじで。ただ、PBLというのは、教えてもらわずに自分で主体的に学ぶということがポイントです。逆に教員は教えてはいけなくて、質問されたらアドバイスするだけという役割なのです。そういう部分をもっと理解してもらえるように改善したいですね。“タンジブル・ソフトウェア教育”関連の国際会議でも、PBLを受けた卒業生たちの社会的な評価は高いという報告がありました。つまりPBLは、社会に出てから役立ったと実感できる教育なのです。その辺を学生にもう少しうまく伝えていければと思っています。また、この授業がうまくいくようになったら、「Greenfoot」を高校へ持っていって、高校生にも是非学んでもらいたいと考えています。日本の情報教育は、学生にExcelやWordを教えることでコンピュータを学ばせたと言いがちですが、それは違いますからね(笑)。高校で「Greenfoot」を使ったソフトウェア開発を経験してもらって、大学ではもう一段階上のステップから学んでもらえるようにできればと考えています。

[2009年10月取材]

■所属研究室・プロジェクト紹介ページ

思考と言語研究室(亀田研究室)(PCサイト)
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com_science_dep/52.html
インテリジェント・プロジェクト(PCサイト)
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media_spc/110.html

・次回は12月11日に配信予定です。

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