「大学の学びはこんなにおもしろい!」

「人のニーズを直接的に引き出す、製品イメージの調査方法を確立したい」
コンピュータサイエンス学部 目黒 良門 教授

■先生のご専門であるマーケティングの研究について教えてください。
まず、マーケティング研究は大きく2つの分野にわかれるということからお話ししましょう。ひとつは、調査やデータを集めることで、ある程度の「解」というか「解答」を得るというものです。これは、従来のマーケティングの学問研究で中心となるものでした。マーケティングを研究する人は、この部分を研究してきたのです。それからもうひとつの分野として、人間の才能やセンスに負う部分というのがあります。例えば、有名なクリエイティブディレクターやプロデューサーという人が世の中にはいるわけです。最近だと、佐藤可士和さんが有名どころですよね。彼は別にマーケティングの理論にのっとって、大学の先生が教えているようなことを実践しているのではなく、彼の頭の中にインサイト(洞察力)があって、どうすれば消費者が喜ぶかとか、どうすれば消費者が満足するかということを捉えているのです。これは彼自身の才能だといえます。こうした有能なクリエイターは、たくさんいます。しかし、これまでのマーケティング研究では、あまり踏み込まれてこなかった領域です。というのも非常に掴みどころがなく、個人の才能に負うところが大きい領域だからです。ただ、そこのところを今後きちんと考えていかないと、マーケティングの研究や学問は、なかなか先に進めないだろうという考え方があるのです。このような従来のデータに基づく分析ではない、新しいアプローチのことを「ポストモダン・マーケティング」と呼びます。私が研究していることは、この一環にあたります。具体的には、消費者が製品に抱くイメージがある一方で、企業にもこういうものをつくりたいというイメージがあります。その二つをうまくミックスする方法はないだろうかというのが研究テーマです。これまでのマーケティングは、とりあえず製品をつくって、お客さんに使ってもらい、紙でミックスに答えてもらって、失敗だ成功だということを繰り返してきました。そうではなく、消費者と企業が一緒になってものをつくることができれば、ヒットにつながるなど成功の確率が高くなるのではないかと考えているのです。

■今、実際にどんなプロジェクトが進んでいるのですか?
製品イメージを動画像でつくってみるということを考えています。実は大手メーカーでは、さまざまな形で製品のイメージや消費者のイメージを掴もうと、すでにこうしたことに取り組んでいるところもあります。例えば、コラージュテストといって、たくさんの絵の中から、ある製品に一番近いと思うイメージの絵を選んでもらうという手法。選んだ絵から消費者が製品に対して持っているイメージを探っていきます。こうした画像を使ったテストも、今ではインターネットを介してデータ収集することが可能です。当研究室ではインターネットを利用して、消費者と企業とが一緒に製品イメージを動画像でつくっていくということに取り組んでいます。現在、文部科学省から科研費をいただき、DMD(Digital Movie Director)というツールを利用して、消費者と企業とが一緒に広告をつくったらどうなるかというプロジェクトを行っています。DMDはシナリオを書けば、2時間くらい練習するだけで、素人でも簡単な動画像やアニメーションをつくれるというツールです。これを使って、複数の消費者と企業とがアイデアの交換をしながらCMをつくってみることに挑んでいます。完成したCMは、少なくともそれに携わった4、5人のイメージを反映させたものになるはずです。そうした仕組みで、より多くの人が共感できる画像をつくることができれば、CMとして成功し、製品イメージをつくるときにも役立つのではないかと思っているのです。これは、よりダイレクトに人間のニーズを引き出していこうという試みなのです。

■では、マーケティングを研究する面白さとは何でしょうか?
市場でどうすれば成功するかということに「解」はありません。絶対にベストな「解」は存在しないのです。つまり最適解というか、こういう環境の下ではこれがベストだという「解」を求めるしかありません。そして環境というものは、ころころ変わります。例えば、大塚製薬の「オロナミンCドリンク」は典型的な例です。あれはもともと中高年向けの飲料でしたが完全に市場が飽和してしまい、ブランドの訴求力が終わった時期がありました。しかし、その環境に合わせるようにターゲットを変え、商品のポジショニングを変え、広告などの表現を変えました。ですから昔は栄養ドリンクだった飲料が、今では若者向けのスポーツドリンクになったのです。このように環境の変化に合わせて、自分たちの「解」を少しずつ変えていかなければなりません。それを事前に予測したり、あるいは現状でベストな「解」を探したり、見つけたりすることが面白さだと思います。

■先生は2010年度に開設される「金融・流通コース」にも携わっているそうですが、どのようなことを教えるのですか?
授業は「金融」と「流通」に分かれていて、私は「流通」を担当します。教えることは、マーケティング、流通戦略、小売戦略。今、一番ホットな部分である、プライベートブランド(PB)の戦略も扱うつもりです。また、流通といっても商社、小売関係、問屋、貿易関係まで含みますので、非常に幅広い学びになると思います。物流・流通取引、店舗経営、マ-チャンダイジングといった、より専門性の高い授業も充実させる予定です。目標はマーケティングや流通の知識を持ちつつ、コンピュータやインターネット、システムに詳しい人材を育成すること。そういう人材は金融業界でも流通業界でも非常に求められています。コンピュータサイエンス学部と聞けば、就職先にコンピュータ業界を思い浮かべるでしょう。しかし、食品メーカーや商社、金融関係などでも、コンピュータの知識を持つ人は必ず歓迎されるのです。ですから学生には幅広い就職先を考えて行動してもらいたいと思っています。

■最後に今後の展望をお聞かせください。
ひとつは、製品イメージの画像調査を確立したいということがいえます。それをどんな企業でも簡単に使えるツールにしていきたいですね。いずれは「あのソフトを使ってする調査方法だよね」とか「あの調査方法を使えば、ヒット商品ができるよね」と、誰もが知っているような方法として本学から発信していければと思っています。これは欲というか、野心ですね。でも研究をするうえでは、野心も必要なのです(笑)。
また、別の研究になりますが、東南アジアにおける消費者の市場調査も行っています。農林水産省からの依頼で、日本産のブランド食品を東南アジアの消費者にどのように提供すれば、買ってくれるだろうかという調査をしているのです。現地の消費者が日本のブランド食品にどういうイメージを抱いているのか、また、もしそれを買うとしたら、彼らはどういう製品を好むのかということについて調査中です。これは画像を使った研究とは少し違いますが、消費者のイメージ調査という広い意味では共通しています。こうした東南アジアにおける食品関係のマーケティングは、今後も続けて行くつもりです。そして将来的には、東南アジアでもインターネットや画像を使った製品イメージ調査ができればと思っています。また、余裕ができれば食品ブランドのマーケティングと海外における広告についての研究にも取り組んでいきたいですね。

[2009年5月取材]

■「先端技術とマーケティング」研究室(目黒良門研究室)(PCサイト)
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/entre/142.html


・次回は7月10日に配信予定です。

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