「大学の学びはこんなにおもしろい!」

「ICタグの応用で、環境にやさしく便利な社会を目指す」
コンピュータサイエンス学部 星 徹 教授

■先生のご研究について教えてください。
ユビキタスネットワーキングの研究をしています。これは、“いま、ここで、わたしが欲する”サービスを享受できるネットワークで、一昔前言われた“いつでも、どこでも、だれとでも”の概念を超えるものです。“ユビキタス”というのは、「どこにでもある」という意味です。もともとは「神の意思は遍在する」という意味の古語でした。それを1980年代後半、アメリカのゼロックス社パロアルト研究所の研究者が未来のコンピュータ社会のコンセプトとして使ったことから、専門家の間に知れわたったのがはじまりです。最近では、ユビキタスコンピュータやユビキタス情報社会などと、一般でもよく使われるようになっていますね。
私の研究室で扱っているのは、生活に根ざしたユビキタスネットワーキングの研究です。例えば、ユビキタス情報社会のカギとなるRFID(Radio Frequency Identification)というICタグを使った研究。ICタグとは、ICチップとアンテナから成っているもので、電波を使ってICチップ内の情報をやりとりする超小型のコンピュータといえます。

身近なところでは、JR東日本のICカード「Suica」に使われていますね。このICタグを、例えば冷蔵庫の中にある食料品に貼ります。ICタグを読み取るリーダーを内蔵した冷蔵庫を利用し、外からパソコンでチェックしてみると、中に何が入っているかが全部わかるようになります。そうすると冷蔵庫を開けることなく賞味期限が把握できたり、どんな食料品がいくつあるかということが一目瞭然でわかったりします。なかなか目の届かない冷蔵庫の奥にあるものもわかるので、使い忘れて賞味期限切れとなり、捨ててしまうなんてことも減るでしょう。また、冷蔵庫の中身を携帯電話で見ることも可能です。帰りにスーパーに立ち寄って、冷蔵庫の中身を携帯電話でチェックできれば、必要なものだけを買うことができるし、献立を考えるのにも便利です。それから、冷蔵庫のドアを開ける回数が減る分、省エネにもなります(笑)。

別の例を紹介しましょう。人が持っているSuicaなどのICカードを利用して、ひとの行き先、行動履歴などを把握する電子行き先表示板を開発して、実施に研究室のメンバー間で長期間の運用実験をしています。いま、研究室にだれがいるのか、先生は、いま、どこにいるのか、などの情報が、携帯からでも自宅のパソコンからでもわかるようになっています。もちろんプライバシーには十分気をつけていますが(笑)。メンバーの過去の行動履歴と予定表の情報から、グループとしての行動予測、研究室の管理になどにつかえると面白いと思っています。

■この研究は、どのくらい進んでいるのでしょうか?
技術的には、すでにでき上がっています。本学部の研究成果を展示するためのユビキタスICT(Information & Communication Technology)研究センターに、「ユビキタスホーム」という近未来の生活を体現するテストベッドをつくり、そこで実証的に応用システムの研究を進めているところです。ここで試作したシステムが動いています。「ユビキタスホーム」は近い将来、食料品や薬、衣服、本など、あらゆるものにICタグがついて家庭に入ってきたことを想定し、それを読み取ることのできるタグリーダがついた次世代の冷蔵庫、洗濯機やクロゼット、本棚, 薬箱などが設置された部屋です。“どこに何があるか“、”いつだれがそこにいたか“、”いつだれがそれに触れたか“、などのいわゆる「プレゼンス情報」をコンピュータに蓄積し、総合的に活用することにより日常の生活を支援する、ユビキタス生活環境を実現している部屋です。今後、実用化に向けて、電化製品、家具にICタグを読み取る機能を持たせる仕掛けが必要だったり、ICタグのコストダウンの課題があり、もうひと息というところではあります。

■では、生活に根ざした研究以外では、どのようなことに取り組んでおられますか?
ICタグを制御するソフトウェアの技術開発を行っています。例えば、物流の場合、コンテナなどに貼られたICタグは、日本、アメリカ、ヨーロッパ…と世界中をめぐるわけです。世界中でそれを読み取れるようにするには、中のデータを共通化しておかなければなりません。また、このICタグの中には、たくさんの情報を書き込むことができるのですが、物流などで、ベルトコンベア上で高速に商品を仕分けする時、ICタグを高速に読み書きしなければなりません。また、メモリーの中にどう書くかといことも共通化しておく必要があります。国によって書き方が違うと、伝わりませんからね。こうしたICタグのメモリーの高速な読み書き方法の研究をしつつ、国際規格に関しては、ISO(国際標準化機構)という機関で行われていて、星研究室の研究員も標準化規格をまとめるエディターとして関わっています。

■先生のご研究分野は、2010年からコンピュータサイエンス学部に新設される「金融・流通コース」や「生活・環境情報コース」とも関係が深いのでしょうか?
私の研究は、「生活・環境情報コース」と密接に関連すると考えられます。今は社会の流れが変わり、エコや低炭素社会へ向けた動きが活発になってきています。そうした中で、ICT(Information and Communication Technology)の切り口でできることを見つけ、その実用化について学んでいくのが「生活・環境情報コース」です。例えば、物の流通経路を生産から消費、廃棄段階まで追跡することができるトレーサビリティ。野菜で例を挙げると、誰がどんな農薬を使ってつくり、いつ出荷され、店頭に並んだかというような履歴を確認する仕組みのことです。この履歴を消費者まで届けることは安心感を与えることにつながり、ビジネス面から見てもひとつの価値になります。また、このトレーサビリティをエコにつなげたカーボンフットプリント(炭素の足跡)というものもあります。これは、ある商品が栽培から製造、包装、配送、廃棄までにどれだけのCO2を排出するかを調べ、商品に記載するというものです。こうしたトレーサビリティには、私の研究しているICタグが大変有用です。ICタグとトレーサビリティ情報システムによって、商品の生産者情報、流通情報、CO2消費量など、価格以外のいろいろな価値を目で見えるようにし、消費者に商品を選んでもらうことができればと思っています。

それから「金融・流通コース」の設立背景には、これら金融、流通といった分野と、コンピュータとの距離がますます縮まったことがあります。いたるところにコンピュータが使われ、世の中は非常に効率よく、便利になってきています。また、インターネットも非常に普及しています。個人の生活では、いつでもどこでも誰とでもコミュニケーションがとれるようになりました。情報がネットの中にたくさんあり、ネットオークションをしたり、ショッピングをしたり、誰もが当たり前のように利用しています。ビジネスの現場でも企業情報システム、企業間電子商取引、グループウェアなど、インターネットとコンピュータが多様な様相で使われ企業の生命線となっています。このようにコンピュータが支える世界は、非常に大きく広がっているのです。従来はコンピュータを学ぶというと、技術に力点がおかれ、コンピュータ自身のことやソフトウェア、ネットワークの仕掛けを勉強するといったことが中心でした。しかし、今の世の中とコンピュータとの関わりを考えると、必ずしもそれだけで十分とは言えなくなってきています。一方、ビジネスパーソンにはコンピュータをビジネスとして利用するスキルが一層求められています。すなわち、ビジネススキルに加えてITスキルを持った人たちがマーケティングを行ったり、企業経営情報システムを使ったり、売上などをコンピュータで管理したりして、企業経営にかかわっっていますよね。ですからコンピュータの知識とビジネス実務知識の両方を持った未来志向型のビジネスパーソンを育てたいとうことから、新たなコースの設立へと至ったのです。

■最後に今後の展望をお聞かせください。
今、取り組んでいる研究の中でも、特にトレーサビリティに関連する研究は、社会で大変役立つことだと思っています。ですからそれを実用化にむけて、何が必要かということを考えながら的を絞って研究を進めたいと思っています。また、近未来の生活に関係するユビキタスホームの研究では、夢のあるコンセプトと、システムを追求していきたいと考えています。同時に、高齢者支援、生活弱者支援などを、ユビキタス環境で解決する人にやさしいシステムの仕掛けを考えることが大切と考えています。例えば、物をどこにしまったか忘れたとき、ICタグで簡単に見つけられるような方法を開発するなんて面白いのではないでしょうか。研究には実用化のために越えなければならない、大変な部分がいくつもあります。研究者はそれを「Death valley」(死の谷)なんて呼ぶわけですが、それを乗り越えて、実用化につながるものをいくつも生み出していければと思っています。

■ユビキタスネットワーキング研究室(星研究室)(PCサイト)
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com_science_dep/70.html

・次回は6月12日に配信予定です。

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